勉強するなら知っておきたい 短期記憶と長期記憶の仕組みについて

脳の仕組みに合わせて勉強すれば効率的に記憶できる

ズーミングの教材開発者の尾間です。皆さんは勉強してもすぐに忘れてつらい思いをしたことはないでしょうか?

勉強はただ何となく時間をかけて頑張ればいいというものではありません。野球やサッカーなどスポーツの分野で正しいフォームで体を動かすことができなければ試合で結果が出せないように、記憶をコントロールしている脳の仕組みを理解しておくことで効果的な方法で勉強できるようになります。記憶の仕組みにしたがえば、効果的な勉強法、やってはいけない勉強法の区別ができるようになり、自分に一番合った勉強スタイルを工夫するヒントだって得られます。

昔から勉強ができるようになるには復習が大事だと言われてきました。習ったことはその日のうちに振り返り、定期的に見直せば記憶が定着しやすいことは経験的に本当っぽいです。しかし復習はめんどくさいので、たいていの場合はその場しのぎの一夜漬けで乗り切るケースが多いのではないでしょうか?たしかに毎日地道に復習するのは面倒くさいものです。どうせなら一発で楽に覚えられる奇跡的な方法がないものかと妄想したことは、誰にでもあるはずです。

このコラムでは脳の「海馬」の役割をメインにして、記憶の仕組みを「短期記憶」と「長期記憶」に分けて解説します。脳の記憶の仕組みを知ることで、やっぱり復習が一番効果的な勉強法だと気づくことでしょう。そして一夜漬けはやはり無意味だということも理解できるようになります。どうすれば忘れにくい頑丈な記憶を効率的に増やせるのか?興味のある方はぜひ一読お願いします。

短期記憶と長期記憶の違いとは?

非常にざっくり言うと短期記憶は一時的な記憶です。自宅の住所や電話番号など、覚えている知識を思い出して一時的に置いておくスペースとしての役割のほか、目や耳など外から受けとった情報が短期記憶として保存されます。短期記憶にある情報は、約30日たつと捨てられてしまう、忘れやすい記憶です。

これに対して、長い間覚えていて忘れにくい記憶のことを「長期記憶」と呼びます。高校入試、大学受験などを目指して勉強するのであれば、この「長期記憶」のほうになるべくたくさんの知識を保管できる勉強法を実践した方が有利なのは間違いないですね。このような脳の記憶をコントロールしているのが「海馬(かいば)」と呼ばれる部分です。

記憶は海馬でつくられて大脳皮質で保管される

海馬はまさに記憶の司令塔ともいうべき部分です。

海馬の重要性を初めて明確に示したのはアメリカの神経心理学者スコヴィルとミルナーの1957年の報告です。この報告はてんかん患者に対して行われた脳の外科手術にかんするものでした。その患者はてんかんの症状がひどく悪化し、薬がほとんど効かなくなっていたため脳の手術をすることになり、海馬を取り除くことになりました。手術は成功しましたが、その患者は重度の記憶障害に陥りました。彼は16歳以降の記憶が思い出せなくなった他、毎日の食事やその日起こったことなど、新しい出来事も全てを記憶できなくなっていたのです。この衝撃的な事例によって、記憶における海馬の重要な役割が確認されました。

脳の分業体制に注目して記憶の仕組みをイメージしよう

人間の脳はとてもたくさんの機能を持ち、各々の部位で役割分担をしています。テストや受験のために覚えた情報を記憶したり、忘れたりするのも脳の役割分担によって機能しています。脳の仕組みをイメージするときはこの「分業体制」に注目すると分かりやすいです。

人間の記憶が作られる場所は海馬です。そして記憶を保管する場所が大脳皮質と呼ばれる部分です。外から入ってきた大量の情報はまず海馬に集まり、どの情報が重要なのかを判断して記憶するべきもの、捨ててよいものを区別しています。このうち、必要だと判断された情報が大脳皮質へ移されて保管されるのです。


イラストで図示した通り、記憶に関する脳の役割分担は次のようになっています。

海馬: 外からの情報を短期記憶として保存、重要な情報だけを大脳皮質に移して長期記憶として保管する
大脳皮質: 海馬が重要だと判断した情報を長期記憶として保管する

人間の脳は覚えるより忘れるほうが得意

そもそも人間は覚えるよりも忘れるほうが得意な生き物です。脳には外部から常に莫大な量の情報が入ってきます。もしそのすべてを覚えていたら逆に私たちは混乱してしまいます。なるべく多くのことを効率的に忘れて、大事なものだけを絞り込んで記憶したがるのが人間の脳の性質なのです。そして海馬がこの「大事な情報だけを区別して記憶する」という取捨選択の作業をして、大脳皮質に送っています。

では海馬が重要かどうかを判断する基準とは何でしょうか?

それはなんと「生きていくために必要かどうか」ということです。つまり「車が目の前に突っ込んできたら避ける」とか「カビの生えた食べ物を口にしてはいけない」などのように生死に直接かかわるような知識を海馬は重要なことだと判断して、長期記憶として保存します。人間も動物なので、そもそもは危険を回避して生きていくために記憶を利用していたのです。

皆さんが学校で習う英単語や歴史上の人物などの知識は、残念ながら人間の生死にかかわるような情報ではありませんね。高校・大学入試という人生の大きなイベントを戦うために必要な知識なので、一発で忘れない記憶にしたいところですが、海馬は「これを覚えなくても死ぬことはない」と考えるので、このままでは短期記憶から取り除かれてしまいます。人類が文字や図など膨大な情報を用いるようになったのは、何千年か前に文明が誕生してからです。せいぜい5千年くらい前の話です。猿から人間から進化したのは400万年ともそれ以上とも言われていますが、そのスケールで見ると5千年はほんの一瞬。現代人の生活スタイルに、脳の進化が追いつくにはまだまだ時間がかかるのでしょう。でも現代の人間のライフスタイルと脳の機能とがマッチしていないからと言って、あきらめる必要はありません。学校で習う知識を海馬に重要だと思ってもらい、長期記憶に保存できる方法はちゃんとあります。

学校の勉強の知識を海馬に重要だと思わせる方法

厳しい大自然の中で生きるのに関係ない学校の勉強の知識を、海馬に重要だと思ってもらうにはどうすればよいか。その方法は「何度もくり返し同じ情報をインプットすること」です。つまり復習です。しかも勉強した時から1ヶ月(30日以内)に何度かくり返すことが大切です。なぜなら海馬の中に情報が短期記憶として留まっている機関が約30日間だからです。この30日間で何度もくり返し復習すれば、海馬は「また同じ情報が入ってきたな。そんなに何回も受け取るということは、こいつはきっと大事な情報なんだろう」と思ってくれて大脳皮質へと情報を移して長期記憶として保存してくれます。

エビングハウスの忘却曲線のコラムで紹介したグラフでも表現されていますが、初めて習った日の夜や1日後、3日後など時間をおかずに復習すれば最初に覚えた時よりも楽に覚え直すことができます。もし30日以上の間隔をあけてしまうと、海馬は「こいつは要らない情報だから捨てよう」と判断して記憶から消されることになります。こうなると最初からやり直すのと同じ手間がかかるので、勉強の効率が非常に悪くなります。

30日以内にくり返し復習することで長期記憶が作られる

昔から勉強には復習が大事だと言われてきたのですが、脳の仕組みにもとづいて考えても理にかなった言葉だということが分かっていただけたのではないでしょうか?そして理想的な復習のペースはその日の夜、1日後、1週間後にくり返すことです。それから少し時間をかけてまた復習することで長期記憶から素早く情報を取り出す回路を頭の中に作ることができます。

ただし、長期記憶に情報が保存されたとしても忘れてしまうこと、思い出しにくいことはよくあります。そういう時は落ち込まずにまた覚え直すだけで大丈夫です。人間は覚えるより忘れるほうが得意な動物なのですから、自分以外の人も同じような経験をしています。長期記憶にある情報が思い出せなくても、情報そのものが消えてしまったわけではありません。厳密な説明は省略しますが、情報を保管している神経細胞は残っているので、覚え直すことで神経細胞同士のつながりが強固になって前よりも思い出しやすくなります。

むしろ問題をたくさんこなして、忘れた部分や思い出しにくい部分をどんどんピックアップして記憶を強化していくべきです。さらにたくさんインプットすることで、神経細胞同士の結びつきが新しくなり、様々な分野・科目の知識を総合的に理解する力も磨かれますよ。

こまめに復習を行う反復学習こそが、勉強の王道なのです。

また学校のテスト前日に一夜漬けでテスト範囲の内容を覚えようとする人がいますが、もし初めて習った日からテスト当日まで30日以上の月日がたっていたら、授業で習った知識は完全に忘れ去っているので、自力で最初から勉強し直すという非常にめんどくさい事をしなければならなくなります。

そしてテストが終わってしまえば、解放的な気持ちになって復習などするはずがありません。すると結局、海馬は1回しか情報を受け取らないことになるので30日後にまた覚えたことが捨てられてしまうことになります。学校の定期テストは出題範囲が限られているので、一夜漬けでもどうにかなる場合もあります。しかし中学や高校の全範囲から問題が出る入学試験のことを考えると、一夜漬けはやるだけムダな勉強法だと言えます。